警備会社の譲渡

当社が仲介を行った名古屋の警備会社(仮称:A社)の社長に、M&Aを行った際の経緯や売却の理由、及びM&A後の状況をお聞きしました。A社は平成19年に創業され、現在年商1億円弱で、従業員は30名弱の企業でした。

会社の概要やM&Aに至った経緯を教えてください。

当社は、平成19年に設立し、現在創業11年目です。業歴が古い警備業界にあっては、まだまだ新参者ですが、名古屋市の不動産会社や地方自治体の公共部門を中心に警備業を手掛けております。

自力で人員を確保し、取引先を増やしてきましたが、数年前からの大口取引先である会社からの業務の比率が高くなってしまい、取引先からの値下げ圧力から単価が年々下がることで、業績は年々悪化をしていきました。単価が低くなることで、赤字が出続けてしまいましたが、大口の取引先であったため、断ることもできず、またその仕事がなくなった場合は、大勢の従業員の職がなくなってしまうという状況でした。
ついには、売上に付随する預り消費税も資金繰りの中で費消することで、消費税の滞納という状況にまで陥りました。こうなると、経営的には破たん寸前です。こうした時、知り合いの税理士に相談をしたところ、知り合いで会社の買収を積極的に行っているところがあり、一度相談してみてはどうか、そこに会社を売却することで会社が生き残る可能性がある、と言われました。

当初は、会社の売却と聞いた時、会社のすべてを手放し、自分には何もなくなる、またそもそもこんな状況の会社を買う先があるんだろうか、というのが正直な感想でした。しかしながら、このまま放っておいても業績の改善の見込はないばかりか、税金も納めることができず、会社の破たんは確実です。わらにもすがる思いで税理士の紹介先に行ってみました。

M&Aが成立するまでの交渉などについて教えてください。

相手先とは、最初に会った時に、会社の状況をすべて話しました。

相手先は、非常に慣れた様子で、会社の税金の滞納分を支払ったとして、その先の事業計画を聞いてきました。私は、一時的な資金援助があれば、単価の低い仕事から、ある程度単価の取れる仕事へと切り替えを行い、利益を確保していく考えがあることを述べました。また、警備業界の現状、すなわち高齢化が進む中、人手不足が必ず顕在化するので、仕事量及び単価ともに上昇していく可能性がある、ということを説明しました。

相手先からは、その場ですぐに資金援助を申し出ていただきました。ただし、その前提として、単なる貸付ではなく、今後の事業全般を支援するので、株式を譲渡していただきたい、と言われました。私としては、会社が存続して、今後の雇用が守られること、が最優先でしたので、株式の譲渡については了解しました。しかし、今後も継続して経営をやって欲しい、と言われたので、ぜひお願いします、と答えました。

その後、条件面ではM&Aプロさんの担当が詳細に説明してくれました。私としては、こんな赤字の会社でも買い取ってもらえるのか、と正直驚きました。また、不足資金についての借入も即日できたので、本当にギリギリのところで会社を存続させることができました。

その後はどうですか?

会社を譲渡するのと同時に、未払税金と当面の運転資金の援助を受けることができ、まずは会社の倒産を回避することができました。

また、運転資金が確保できたことで大口の取引先に対して思い切って価格交渉をしたところ、単価のアップもしていただきました。また、銀行や取引先に対しても、当面の経営破たんのリスクはなくなったことを説明し、今後の協力もいただいたところです。
以前は、資金繰りに窮するあまり、目の前の資金確保のために単価が低くて赤字の仕事を請け負っていましたが、現在はきちんと利益が出る仕事を取るように努め、わずかながらでも利益が出る会社になっています。
もちろん、今のままでは会社として株主への還元ができないので、今後は事業の拡大を目指して人員の拡充も進めているところです。もともと人材不足が顕在化している業界なので、私が資金繰りに時間を取られず、本業に注力することができれば、会社を大きくしていくことができると考えています。

この先、M&Aを検討している経営者に対して一言ください。

中小企業はどうしても資金力が弱いものです。

当社も資金力がなかったため、一度赤字を計上してしまうと、借金が返せない、資金繰りに詰まる、目先の資金欲しさに赤字の仕事を取ってしまう、といった悪循環に容易に陥ってしまいました。
こうした悪循環は企業努力だけではどうにもならない時があります。また、銀行も赤字の会社には、援助をしてくれないものです。そういう時、自助努力も大切ですが、外部に思い切って相談することで道が開かれることもあります。会社を売る、というのは経営者にとってはお終いだ、と思っている経営者の方も多くいらっしゃると思います。私もそうでした。しかし、M&Aで会社を立て直すことも可能なのです。現に、私はオーナー経営者から雇われ経営者にはなりましたが、従前と同様に経営に携わっておりますし、将来会社が利益をきちんと出して、株主に還元することができれば、この会社を将来にわたって経営することができます。また、将来、会社が大きくなった時にストックオプションのような形で株主になることも可能なのです。
M&Aによる会社の売却は決して終わりではなく、M&Aによって会社が再生し、新たなスタートを切れる前向きな選択肢になり得る、ということをお伝えしたいと思います。